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ピ エモンテはそれ自体が歴史、芸術、文化であり、古代ローマの遺跡からロマネスク様式の秀作、アール・ヌーボー、現代の未来建築物に至るまで、莫大な建築遺 産を持っています。しかしながら、ピエモンテで壮麗さと同時に簡素さと壮大さを表現するのはバロック様式で、王国の首都を装飾するべく、サヴォイア王家か ら呼び集められた有名な建築家たちの手によって、トリノの建物や広場が作られました。また、ユネスコの世界遺産にも登録された貴族の邸宅や歴史的建物や、 サクリ・モンティ(聖なる山々)、そして“コロナ・ディ・デリツィア(悦楽の王冠)”と呼ばれた美しいサヴォイア家の数々の居城の華麗さは、ヴェナリア王 宮をしてその頂点を迎えました。この王宮をご覧頂けば、17-18世紀の豊かで豪奢な建築と芸術がよく分かります。
2008年ワールド・デザイン・キャピタルにも認定されたトリノでは、2千年以上にわたる様式と時代が交差しているのです。古いものではパラティーナ門や クアドリラーテロ・ロマーノ地区、数々の宮殿やバジリカ、モーレ・アントネッリアーナ、リンゴットや2006年のオリンピックに際して建てられた、磯崎新 によるパラスポルト競技場、オヴァール、ガエ・アウレンティとアマルド・デ・ベルナルディが設計したスケート会場などの建築物です。

フランスからアルプスとスーザ峡谷を経由してイタリアに達する古いルート「ヴィア・フランチジェーナ」の沿道では、ピエモンテ州で最も興味深いロマネスク 建築を見ることができます。このルートは、エルサレムとサンチアゴ・ディ・コンポステラを結ぶ長大な巡礼の道「空の巡礼路Cammini del cielo」の一部をなしており、中世においては一生に少なくとも一度この道をたどることが信仰の深さを神に示す上での義務と考えられていました。今日に おいても、雄大な景観と豊かな自然環境に身を任せながら、険しい峠や谷を巡る細い道をたどり、宗教芸術の極みともいえる歴史的建造物へ向かう巡礼の旅を追 体験することができます。中でも見逃せないのは、10 世紀の昔からスーザ峡谷の入り口にそびえる壮大な修道院建築サクラ・ディ・サン・ミケーレ、そして8 世紀に築かれた建築芸術の宝石ノーヴァ・レーザ修道院(いずれもトリノ県)でしょう。中世ロマネスク建築のもうひとつの傑出した事例が、クネオ県のサルッ ツォから数km の距離にあるスタッファルダ修道院です。そこからワイン畑に覆われたモンフェラート丘陵に向けて足を伸ばすと、重要なロマネスク建築が数多く残るアスティ 県に入ります。サン・アナスタシオの地下聖堂、アルブニャーノにあるヴェッツォラーノ修道院、モンティリオのサン・ロレンツォ教会、コルタッツォーネのサ ン・セコンド教会など。さらに道を進んだアレッサンドリア県には、州内で最も重要なロマネスク建築のひとつ、セッツァーディオのサンタ・ジュスティーナ教 会があります。そこから一路、手つかずの自然が残る丘陵地帯や水田地帯を抜けて北に向かうと、まずヴェルチェッリ、そしてノヴァーラへと道は続きます。 ヴェルチェリのサンタンドレア聖堂、サン・ナッザーロ・セシアにあるサンティ・ナザリオ・エ・チェルソ修道院を経てビエッラ県に入ると、一番の見どころ は、典型的な中世の要塞都市が11 世紀に城塞に改築されたマッッサッツァ城。ピエモンテ州を一周するロマネスク建築巡りの旅はこうして終わりを告げます。バロック建築。バロック建築といえ ばすぐに頭に浮かぶのは、視覚的効果に満ちた設計、スタッコ(化粧しっくい)で飾られた波打つ壁面、豪華な大理石や金箔による過剰なほどの装飾といった要 素でしょう。しかし、16 世紀後半から18 世紀までの宗教建築を支配したこの様式は、ことピエモンテ州においては、この地を支配したサヴォイア家の繁栄と密接に結びついて発展し、過剰な装飾をほと んど廃したきわめて質素な形で表現されています。その中心地はもちろんサヴォイア朝の首都トリノ。市の中心部にはパラッツォ・マダーマ、建築家グアリーニ の代表作であるパラッツォ・カリニャーノがあり、少し外に出るとヴァレンティーニ城やスーペルガ聖堂、さらにはストゥピニージにあるパラッツィーナ・ ディ・カッチャから、マンドリア、モンカリエーリ、リヴォリといった城の数々、そしてアリエのドゥカーレ宮まで、近郊地域まで含めて美しいバロック建築の 宝庫となっています。アレッサンドリアでは、市の中心部にある1731 年にベネデット・アルフィエーリが設計した県庁舎、そしてやはり18 世紀に立てられた音楽学校が代表的なバロック建築。アルフィエーリは生まれ故郷のアスティ県にもいくつもの作品を残しています。生家でもあるパラッツォ・ アルフィエーリ(現在は市立図書館)の拡張・改修工事を手がけたほか、パラッツォ・オットレンギ、サン・セコンド広場に立つ市庁舎のファサード、そして司 教神学校や国立文書館の改修など。しかし、アスティ県で最も重要なバロック建築は、偉大な軍人建築家アントニオ・ベルトラが手がけたサンタ・マリア・アッ スンタ大聖堂とサン・マルティーノ・アルフィエーリ城でしょう。クネオ県にある重要なバロック建築には、ラッコニージ城、戦略的に重要な丘の上に位置する ゴヴォーネ城など、サヴォイア家直轄の城塞も含まれています。ヴァルカソット修道院のように、当初は修道院として築かれながら、カルロ・アルベルト王に よって王宮に改築された建物もあります。また、ピエモンテ州で最も重要な聖母マリア信仰の聖所のひとつで、年間を通して多くの巡礼者が訪れるヴィコフォル テ聖所記念堂も見逃せません。

ノヴァーラの中心部が中世の面影を強く残しているとするならば、マッジョーレ湖の周辺を支配するのはバロックの空気です。代表的なのが、ボルゴマネーロの サン・バルトロメオ教会と、グリニャスコのアッスンタ・デル・ヴィットーレ教会。オルタ湖の息を呑むような景観の中にも、オリジナルのロマネスク様式の一 部をバロック様式に改築したサン・ジュリオ聖堂があります。オルタ湖に浮かぶもうひとつの島、ヴェルバニア県ストレーザの沖に浮かぶベッラ島には、有名な パラッツォ・ボッローメオを含む複合建築がそびえています。ヴェルチェッリ県を代表するのは、ユヴァッラが設計したサン・ジャコモ教会です。

空力的なフォルムと光の動的なラインに象徴される未来派の純粋なエネルギー、沈黙と謎の表情を持つ芸術家カソラーティの奇妙な遠近法、華やかなアールデ コ、ポップアートの鮮やかな色彩、ストイックなアルテ・ポーヴェラ、さらには19-20 世紀の偉大なマエストロたち、今は歴史となった前衛芸術……。ピエモンテ州では、ギャラリーや美術館を訪れることはもちろん、街を散策して通りや家の回り を見回すだけで、芸術と出会うことができます。ビエッラ県は、未来を見つめています。1996 年に新たな文化を育む目的で生まれた「チッタデッラルテ」は、この施設を運営する財団が世界中の若手アーチストに工房や展示スペースなど創造のための環境 を提供する、いわば「芸術の工事現場」です。通常ならばアトリエの内部に閉じこめられた制作現場が、ここでは外部の世界にダイナミックに開かれています。 外部に開かれた表現の場は、同じビエッラ県のメッザーナ・モルティリエンゴにも見ることができます。山の斜面に位置する小さな集落・ボンダ地区の石造りの 家、草に覆われた道、石の階段などに壁画や彫刻が施され、オープンエアの絵画館として機能しているのです。カナヴェーゼ地方のマリオーネには M.A.C.A.M.(オープンエア現代美術館)があり、単なる散歩がそのまま芸術鑑賞になります。人工の照明のかわりに太陽の光が、金属彫刻や建物の壁 に直接描かれた絵画を照らし出します。ヴァッチャーゴ(ノヴァーラ県)にあるカルデラーラ現代美術コレクションは、豊かな自然の景観を持つオルタ湖畔に位 置しており、幾何学的な抽象画から視覚的ポエジーまで、60 年代から70 年代にかけてヨーロッパ内外で制作された現代美術作品327 点が収蔵されています。湖水地域からクネオ県に移ると、注目したいのはカラリオのフィラトイオ・ロッソ(ロッソ製糸工場跡)。伝統と革新、地域文化と進取 の気性の融合ともいえる実験的な施設です。さらに、アレッサンドリア県のカザーレ・モンフェラートにある現代芸術コレクション(モランド、ビニエーコ、 ヴォルペード、スキファーニ、タリエーリ、ヴァリエーリといった作家のカンバス画を収蔵)と、その近くにあるペッリッツァ・ダ・ヴォルペードのアトリエも 見逃すわけにはいきません。当時の調度がそのまま保管されたこのアトリエには、画家が集めた書籍をはじめ、画材、絵画、そして代表作「第4国家」の構想画 などが集められています。ピエモンテ州の美術館やギャラリーに所蔵された芸術作品は、ガラスの壁に守られた宝物ではありません。刻々と更新され、新たなイ ンスピレーションや最先端の取り組みを生み出す生きた財産なのです。それを端的に示すのが、ヴェルバニアで開かれるBAM(現代美術ビエンナーレ)をはじ め、今後予定されている様々なプログラム。ヴェルバニアが現代美術の首都ならば、それに続くのがヴェルチェッリ。9 月から、ヴェネツィアのグッゲンハイム財団のコレクションを集めた3つの国際的展覧会が、旧サン・マルコ教会で開催される予定です。